細胞培養の基礎 その1 ~細胞培養の歴史と必要な設備、試薬~

細胞培養の基礎 その1 ~細胞培養の歴史と必要な設備、試薬~

細胞培養は、生命科学分野における基本的な技術のひとつです。試料や臓器から採取・分離した細胞を、培養液を用いて試験管やシャーレ、プレート内で培養する技術は、基礎研究、創薬研究、再生医療研究に利用される他、バイオリアクターやタンクなどの拡大された条件下で細胞を培養するにより、ワクチン研究開発・製造でも活用されています。

ここでは、細胞培養の歴史と必要な設備や試薬について解説します。

細胞培養(cell culture)とは?

1665年にイギリスのロバート・フック(Robert Hooke)が自作の顕微鏡で「細胞(cell)」という構造を発見してから約230年後の20世紀前半、アメリカのロス・グランビル・ハリソン(Ross Granville Harrison)がカエルの組織を培養し、神経細胞の成長を確認したのが細胞培養のはじまりと言われています。

細胞培養は、組織から採取・分離した細胞を培地(培養液、culture medium)に入れ、それぞれの細胞が要求する栄養を添加・供給しながら、温度や二酸化炭素濃度などの環境を提供しつつ生存を維持し、増殖や分化、特殊な形態に変化させることを言います。

ここで培養された細胞は、体内で生じる現象を体外で模擬的に表現できる他、薬剤のスクリーニングなどの研究や細胞療法などの治療目的で使用されたりと、様々な活用が可能です。

細胞培養に必要な設備や試薬は?

細胞培養の実施には、外来の物質による培養細胞の汚染(コンタミネーション、Contamination)を避ける設備と操作が必須です。細胞培養に最低限必要となるアイテムを、【設備】と【試薬】に分けてまとめます。

【設備】

・保存設備
細胞培養に限定されませんが、試薬やサンプルの保存を冷蔵以下の温度で保管するための保存設備は必須です。PHC株式会社バイオメディカ事業部では、保冷庫、冷凍庫、超低温フリーザー、液体窒素タンクを提供しています。特に液体窒素タンクは、細胞の長期保存に必須の装置です。

・滅菌設備:オートクレーブ(Autoclave)、乾熱滅菌器

細胞培養で使用する器具は滅菌されている必要があります。滅菌されていない消耗品や器材を使用する場合は、事前にオートクレーブや乾熱滅菌による滅菌を行ってください。なお使用する器具の材質によって使用できる滅菌法が異なりますので、ご注意ください。

クリーンベンチ(Clean Bench/Laminar Flow Cabinet)
無菌的な培養操作環境を提供するための作業台(作業スペース)です。培養室に設置する標準~大型タイプのクリーンベンチの他、実験台に置く小型タイプがあります。PHC株式会社 バイオメディカ事業部では小型~大型までのクリーンベンチを提供しています。また感染性のある細胞や試料を扱う場合には安全キャビネットの使用が必要となります。PHC株式会社では安全キャビネットも提供しています。

CO2インキュベーター

培養に適した温度(一般的には37℃)と湿度、CO2濃度(一般的には5%)を提供する装置です。電源の他、CO2提供用の炭酸ガスボンベも必要となります。加湿用に水を張ったバットを置きます。マイコプラズマやその他細菌汚染の原因となる場合がありますので注意が必要です。PHC株式会社 バイオメディカ事業部では殺菌・滅菌による培養後のコンタミネーション防止メカニズムを搭載したCO2インキュベーターを提供しています。

ウォーターバス

凍結した細胞を解凍したり、血清を非働化(Heat Inactivation)するために使用します。

・マイクロピペット、ピペット

細胞培養に限らず使用されるアイテムです。マイクロピペットをクリーンベンチ内に入れる際は、エタノールによる消毒を行ってから入れます。

・顕微鏡

培養した細胞の状態を観察したり、細胞数のカウントを目視で行う際に必要となります。なお目視で行う際は、細胞計算盤が必要となります。計算盤の種類には、ビルケルチュルク(Burker-Turk)、改良ノイバウエル(Improved Neubauer)等があります。その他、自動細胞数計測装置を使う方法もあります。

・代謝分析装置

培養中の細胞の代謝動態を見たり、またそこから得られるデータに基づいて培地交換や薬剤投与などの次の作業に移行するタイミングを検討したいケースがあります。PHC株式会社 バイオメディカ事業部では細胞状態の変化を培養をしながらリアルタイムで測定するライブセル代謝分析装置「LiCellMo」を提供しています。細胞のサンプリングを伴わない方法で、細胞にとって最適な培養環境を維持したままモニタリングをすることが可能です。

・培養器材

シャーレ、マルチウェルプレート、マイクロプレート、フラスコなどのプラスチック製器材を用いて培養を行います。培養したい細胞や細胞数によって器材を選びます。通常は滅菌済みの製品を購入して使用します。

【試薬】

培地(Culture Medium)

培養に必要な栄養や成長因子を提供するための液体です。基礎培地(Basal Medium)に、添加物(Supplement)を加え、各細胞に合わせた組成の完全培地(Complete Medium)として使用します。

血清(Serum)

培養に必要な栄養を含む液体です。ウシ胎仔由来の血清(Fetal Bovine SerumFBS)を用いるのが一般的です。細胞の種類や培養条件によって、血清代替品(血小板由来添加物)の使用や、無血清による培養が可能です。

細胞培養基質(Substrate)

細胞の種類により、適切な培養のために「足場」となる環境が必要となることがあります。簡単なものではゼラチンやコラーゲン、マウスEHSEngelbreth-Holm-Swarm)肉腫由来の細胞外基質の他、最近で金属やポリマーなど様々な素材で作られた足場(Scaffold)があり、各メーカーから販売されています。

凍結保存液

培養した細胞を冷凍保存する際に必要となる液です。凍結保護剤として機能するDMSO(ジメチルスルホキシド)を培地に添加したものを保存液としたり、DMSOの含有量が異なる凍結保存液、主に幹細胞の凍結で使用されるガラス化凍結保存液などがあります。

細胞培養の基礎 その2 ~細胞培養の基本操作と注意点~につづく